急性大動脈解離の病態
国立循環器病センター心臓血管外科
荻野 均

1)定義

  大動脈解離は大動脈壁が中膜レベルで剥離した状態を言う。突然発症し、内膜裂孔(エントリー)から解離した部分に血液が流入して真腔と偽腔の二腔構造となる。

2)病因

  表1に示す。

3)病型

  解剖学的に解離の範囲からみて、DeBakey分類I型、II型、III型(a、 b)、ないしはStanford 分類A型、B型に分類され、簡便な後者が汎用される。また、偽腔内血流の有無により偽腔閉塞型と偽腔開放型に分類される。偽腔閉塞型には、欧米で言うintramural hematoma(IMH)(1)も含まれる。さらに、発症時期的に超急性(発症後48時間以内)、急性(2週間以内)、亜急性(2週〜2カ月)、慢性(2カ月以降)に分類される。

4)病態

  急性期では、症状の発症から1時間あたり1〜2%の致死率があるとされており、特に48時間以内の超急性期の死亡率が高い(2)。原因は、心タンポナーデ、破裂、臓器虚血(冠、脳、腸管など)、などである(3)。このような続発症は2週間以内の急性期に発生することが多い。

A)大動脈の破裂、出血、それに伴うショック

  1. 心タンポナーデ:死因として最も頻度が高い。
  2. 胸部、腹部出血:左胸腔内出血や縦隔内出血として発生する。

B)大動脈内腔狭窄または分枝閉塞に伴う臓器灌流障害(malperfusion)

  1. 冠動脈→心筋虚血:3〜9%の頻度とされている。解剖学的に右冠動脈の障害が発生し易いが、左冠動脈まで障害されるとショックから心停止に陥り重篤で救命困難となる。
  2. 弓部分枝動脈→脳虚血:3〜7%に合併する。脳梗塞から昏睡状態に陥った患者の治療方針に関しては議論が分かれるが、通常は緊急手術の対象から除外される。
  3. 鎖骨下動脈→上肢虚血:2〜15%に発生する。血圧の左右差だけのものまで含めると約半数にみられる。
  4. 肋間動脈、腰動脈→対麻痺:4%程度に発生しうる。一過性のこともあり、障害の程度はさまざまである。
  5. 腹部分枝→腎不全、腸管虚血:腎不全は血液透析で対処可能であるが、腸管虚血の予後は不良であり、可及的早期の血行再建が必要となる。
  6. 下肢動脈→下肢虚血:7〜18%と合併頻度がやや高い。

C)その他

  1. 大動脈弁閉鎖不全(AR):基礎的疾患として大動脈基部〜上行大動脈に拡大性病変を伴い既にARを伴っている場合と、基部病変が解離により大動脈弁の交連部が解離しARが発生する場合がある
  2. 凝固異常(消費性凝固障害):特に、偽腔閉鎖型で、広範囲に血栓閉塞した場合にみられる。
  3. 全身の炎症反応(SIRS):血管の炎症反応や凝固線容系の活性化により惹起される。発熱や呼吸障害を呈する。

5)症状

  ほとんどの症例で、突然発症の引き裂くような胸・背部痛がみられる。しかしながら、疼痛がなく、意識障害、下肢麻痺、微熱、全身倦怠感のみのこともある。

6)身体所見

  心タンポナーデや破裂によりショックを伴うことが多い。分枝虚血を伴えば意識障害や下肢虚血を伴う。特徴的所見として血圧の左右差があるが、全例に認めるわけではない。

7)診断・検査

  1. 心電図:心筋虚血を伴えば心電図変化を認めるが、合併率は10%以下と多くはない(2)。
  2. 胸部X線;縦隔拡大、心拡大、胸水がみられるが、診断の手がかりに過ぎない。
  3. 超音波検査;疑診段階で直ちに行う。解離(解離内膜)、心タンポナーデ、AR、冠動脈血流障害などを評価する。頸動脈解離や腹部分枝血流も併せて評価する。後に、経食道エコーにより詳細に評価する。
  4. 造影CT検査;確定診断に至る。
  5. 血管造影;分枝の評価などに有用であるが、侵襲性と時間を要すること、CTの進歩などにより以前ほど施行されない。
    したがって、実際の診断の流れは30分以内を目安に、Bで疑いCで診断確定する。病型による治療方針を図1に示す。ショックのためCを行う余裕のない場合には、Bのみで外科治療に移行する。

8)鑑別疾患

  胸背部痛を呈する狭心症・急性心筋梗塞、急性肺塞栓症、大動脈瘤破裂、胆石発作、尿路結石などとの鑑別が必要である。特に狭心症・急性心筋梗塞との鑑別は重要で、逆に解離の続発症としての心筋梗塞の場合もある。

【文献】

  1. Nienaber CA, von Kodolitsch Y, Petersen B, et al. Intramural hemorrhage of the thoracic aorta. Diagnostic and therapeutic implications. Circulation. 1995; 92:1465-72.
  2. Hagan PG, Nienaber CA, Isselbacher EM, et al. The International Registry of Acute Aortic dissection (IRAD): new insights into old disease. Jama. 2000; 283:897-903.
  3. Mehta RH, Suzuki T, Hagan PG, et al. Predicting death in patients with acute type A aortic dissection. Circulation. 2002; 105:200-6.


【図表の説明】

図1:急性大動脈解離の診断、治療方針

表1.

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