胸部下行大動脈瘤の外科治療
東北大学大学院医学系研究科心臓血管外科
教授 田林晄一
  胸部下行大動脈瘤は、病態別に真性、解離性、外傷性、感染性、炎症性に分類される。
 外傷性瘤は交通事故後、また高所からの落下後に発生することが多い。瘤は大動脈狭部に発症することが多く、致命的な交通事故後15%にみられると報告されている。
 感染性動脈瘤の原因菌はSalmonella、Candida albicans、tuberculosis等で、発生頻度は全大動脈瘤の2.5%である。炎症性大動脈瘤の主な病因は大動脈炎症候群で、狭窄病変と拡張病変の混在、多発瘤等の複雑な病態を呈することが多い。
 胸部下行大動脈瘤の手術適応は55mm以上の瘤径、瘤の拡大速度が6ヶ月で5mm以上、嚢状瘤、痛みの継続、血圧コントロール不良、多臓器障害、臓器虚血、また破裂(切迫破裂も含む)である。

A.補助手段

  胸部下行大動脈瘤手術時の補助手段として単純遮断法、一時的バイパス法、左心バイパス法(left heartバイパス,LHバイパス)、大腿動・静脈バイパス法(femoro-femoralバイパス法,F-Fバイパス法)、上・下半身分離灌流法、超低体温循環停止法がある。

B.手術方法

I.肋間動脈再建を必要としない胸部下行大動脈置換

  末梢側大動脈遮断部位が第8胸椎より中枢の場合は、肋間動脈再建は不要である。体位は右側臥位とし、分離肺換気下に左後側方開胸(第4肋骨床、また第5肋骨床)を行う。ヘパリン投与後、補助手段を開始し、大動脈遮断後に瘤を切開して、出血している肋間動脈を4-0モノフィラメント糸の8字縫合、またフェルト付きU字縫合で結紮止血する。人口血管との吻合は中枢側より開始し、3-0または4-0モノフィラメント糸の連続縫合で行う。

II.肋間動脈再建を必要とする胸部下行大動脈置換術

 末梢側遮断部位が第8胸椎以下になる場合は脊髄障害予防の対策が必要で、その一つとして肋間動脈再建がある。開胸部位は動脈瘤の末梢側伸展度により異なるが、末梢側吻合部位が横隔膜近傍の場合は右半側臥位下にStoneyの皮膚切開を行い、第6また7肋間開胸と横隔膜環状切開で到達する方法により良好な視野を得ることができる。その他の場合は左後方開胸(第5また6肋骨床開胸と第6また7肋骨後方切離)で到達する。脊髄虚血時間短縮の目的で、人工血管との吻合および肋間動脈再建は分節遮断下に先に末梢側吻合を行い、末梢側遮断鉗子解除後に肋間動脈再建、肋間動脈の再灌流を行い、遮断鉗子部位の変更をして、最後に中枢側吻合を行う。
 術中、どの肋間動脈を再建するかの判断は難しいが、第8肋間動脈より第2腰動脈の特に左側よりAdamkiewicz動脈が起始している可能性が高いとされていることから、この範囲の肋間動脈を複数本再建すべきである。

C.手術成績

  最近の補助手段別術後脊髄障害発生率および死亡率は表1のようである(表1)。LHバイパス法、またF-Fバイパス法に脳脊髄液ドレナージ、また体性誘発電位モニターを付加した群の脊髄障害発生頻度は0〜4%と良好で、脊髄障害発生頻度はLHバイパス法とF-Fバイパス法で差がないと報告されている。術後死亡率は0〜9%と良好で、補助手段による差はみられない。

D.遠隔期成績

  胸部下行大動脈置換術施行後の全症例を対象とした遠隔成績の報告では、1年生存率94.0±3.4%、3年生存率83.6±7.8%と報告されている。病態別遠隔成績では非解離性大動脈瘤の3年生存率89.2±3.5%、急性B型大動脈解離の5年および10年生存率80%、57%、また慢性B型大動脈解離の5年生存率77.4%と良好な遠隔成績が報告されており、また病態により遠隔成績に差がないという報告が示されている。

【図表の説明】

図1.左心バイパス法

バイパス回路に人工肺を装着している。

図2.上・下半身分離灌流法

lt.SA:left subclavian artery
LAA:left atrial appendage
RA:right atrium
LV:left ventricle

表1.Results of descending aortic replacement in several major series

LA:left atrial
SSEP:somato sensory evoled potential
F-F:femoro-femoral
CSF:cerebrospinal fluid
No of Pts:number of patients
EM:early mortality

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