大腿動脈―大腿動脈バイパス

東京医科歯科大学外科・血管外科
井上  芳徳

[ 適応 ]

  大腿動脈―大腿動脈バイパスは、病変が片側の腸骨動脈閉塞で、全身状態が不良である場合、腸骨動脈でのグラフト感染の場合に適応となる。全身状態が不良な症例、特に心疾患(治療困難な冠動脈3枝病変か右冠動脈+前下行枝病変、EF 40%以下)、呼吸器疾患(一秒量 1.3l/秒以下、肺活量50%以下)、腎機能障害(Cr 2.0ml/dl以上、Ccr 15ml/分以下で、腎動脈狭窄に起因しない腎機能障害)を有する症例では本術式を選択する。最近では長区間の腸骨動脈閉塞に対してもPTA+ステント留置術を施行する場合があり、適応症例が限定される傾向にある。しかし対側の腸骨動脈にPTAの困難な病変を認める場合に、PTA+ステント留置術を施行して、いわゆる“ハイブリット治療”とする。また大腿動脈以下に閉塞病変がある場合は開存率が不良となるので、大腿動脈―膝窩動脈バイパスを追加した方がよい。しかし大腿深動脈病変が広範囲で形成術が困難な場合には、本術式を選択せずに交差型大腿動脈―膝窩動脈バイパス術を施行する。

[ 術前準備 ]

  全身状態の不良例に本術式を適応するので、心機能(心エコーや負荷心筋シンチ、冠動脈造影)、呼吸機能、腎機能の厳密なチェックが重要である。動脈造影は、閉塞部位および近位側、遠位側の動脈の状態を知るのに有用であるが(図1)、最近ではCTAやMRAでも十分評価可能である(図2)。ただし動脈壁の石灰化により大腿深動脈起始部の評価が困難な場合や狭窄性病変が疑われる場合には、血管エコーにて精査する。
  除毛は両側鼠径部のみとする。
  人工血管は径8mmリング付きePTFEグラフト(ゴアテックス)あるいはリング付きダクロングラフト(EXS BionitTM)を準備する。ePTFEグラフトを用いる場合にはePTFE縫合糸TM(CV-6, CV-7)を使用すると針穴からの出血が少ない。
  麻酔法としては、硬膜外麻酔+全身麻酔が多いが、極めて高リスク症例では硬膜外麻酔+局所浸潤麻酔か、局所浸潤麻酔のみで施行する。

[ 大腿動脈―大腿動脈バイパスの手技 ]

<総大腿動脈、浅大腿動脈、大腿深動脈の露出>
  仰臥位で、両側鼠径部をヒビスクラブでブラッシングした後、手術用イソジン液で下腹部から両側鼠径部を消毒する。滅菌覆布を固定した後、イソジン付きドレープで消毒面を被覆する。
  両側鼠径部で、鼠径靱帯下に縦方向に5-6cm前後にわたり皮膚を切開する。ドナー側は同側腸骨動脈のPTAが可能なように鼠径靱帯上で外腸骨動脈を露出する。レシピエント側で大腿深動脈形成術を予定する場合には8-10cm前後とする。
  ドナー側は外腸骨動脈のみを露出し、吻合予定部の壁の硬さと硬化部の周在性を確認する。通常は後壁に軽度から中等度の壁硬化を認めるのであるので、中枢側遮断と鼠径靱帯直上での遮断が可能である。同時に前壁やや内側に吻合可能な部位があることも確認しておく。
  レシピエント側は、総大腿動脈から浅大腿動脈、大腿深動脈の壁硬化や狭窄により露出範囲が異なる。浅大腿動脈と大腿深動脈起始部の狭窄であれば、狭窄部を超えて露出し、同領域の血栓内膜摘除術が十分にできるようにしておく。浅大腿動脈閉塞の場合、大腿動脈―膝窩動脈バイパスを同時に施行するか否かにかかわらず、大腿深動脈起始部に狭窄があれば通常の大腿深動脈形成術も施行するので、大腿深動脈のみ狭窄部を超えて露出しておく。
<ルート作成>
  筋膜下かレチウス腔にトンネルを作成する。筋膜下にトンネルを作成する場合、正中の隔壁が硬いため、ペアンかトンネラーなどを使用してトンネルを作成し、正中部のトンネルの径が1.5―2横指あることを確認しておく。レチウス腔は組織が粗であるので、恥骨を触知しながら用手的に容易にトンネルが作成できる。
<使用するグラフト>
  人工血管は径8mmリング付きePTFEグラフトTM(ゴアテックス)あるいはリング付きダクロングラフト(EXS BionitTM)を使用する。どちらを使用するかは術者の好みによる。
<吻合手技> (図3
  ドナー側は、総大腿動脈と人工血管とは直角に吻合する形状で問題はなく、吻合はパラシュート法としている。頭側後壁から後壁中央までグラフトと自家動脈を離して5-0プロリン糸にて連続縫合し、その時点でグラフトを自家動脈に引き寄せ、残りを連続縫合し側端吻合とする(図4)。
  レシピエント側も、原則として5-0プロリン糸でパラシュート法にて吻合するが、大腿深動脈形成術を施行する場合には、6-0プロリン糸を使用してtoe側のみ3点支持とした方が狭窄しにくく確実に縫合できる(図5)。大腿深動脈起始部に狭窄を認める場合は、血栓内膜摘除術が必要となり、多くの場合は剥離部遠位端で内膜を6-0プロリン糸にて結節縫合して内膜固定術(tack down)を施行する。

[ 術後管理 ]

  特別な注意点はないが、鼠径部に吻合部があることより、股関節屈曲は第1病日で90度程度として、第2病日から歩行開始としている。内服薬は、抗血小板薬を1剤処方としている。

特異的な術後合併症

1) リンパ瘻

  鼠径部創のリンパ瘻は人工血管感染につながる可能性があり、避けるべき合併症のひとつである。大腿動脈を露出する際に、動脈より外側の経路とすること、浅在筋膜下に存在するリンパ管は丹念に結紮して切離することが重要である。

2) 人工血管感染

  リンパ瘻から発生する場合や、足部に感染創がありリンパ行性に細菌感染する場合がある。MRSA感染では吻合部破綻から突然出血することが多いため、早期に再手術を施行することが必要である。MRSA以外の場合でも、保存的治療で治癒する可能性が低いので、一定期間の保存的治療で治癒しない場合には、グラフトを除去し必要に応じて血行再建術を考慮する。

【図表の説明】

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