偽腔閉塞型急性大動脈解離の治療とEBM
神戸市立医療センター中央市民病院 循環器内科
加地 修一郎
 Key Words: Acute aortic dissection, Aortic Intramural Hematoma, Prognosis, Medical therapy, Surgical therapy
 偽腔閉塞型大動脈解離は急性大動脈解離の亜型であり、急性大動脈解離の10-30%を占めるともいわれている。1-4 しかしながら、その治療方針については議論があり、施設により治療方針が異なることが多い。最近、日本循環器学会の大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインの2006年改訂版が発表され、その中でも偽腔閉塞型大動脈解離について、大きく取り上げられている。5 そこで、偽腔閉塞型大動脈解離のEBMについて概説する。

偽腔閉塞型急性大動脈解離とは何か

 偽腔閉塞型大動脈解離とは欧米で称されるIntramural hematoma (Intramural hemorrhageとも称される) 1, 6, 7 とほぼ同義であり、大動脈解離の一亜型として認識されている。もともと病理学的には「内膜破綻の無い大動脈解離」という明解な病態として捉えることができるが8 、現在の画像診断で、“内膜破綻のない解離”と“内膜破綻を有するが偽腔に血流がない解離”とを鑑別することは困難なため、臨床的には「偽腔閉塞型大動脈解離」と定義している。欧米では、病因を大動脈の栄養血管の破裂による大動脈壁内の血腫としてとらえ、壁内血腫(Intramural hematoma)という命名となっている9 。これに対して、内膜破綻があり偽腔に血流のある大動脈解離を偽腔開存型解離と定義する。

偽腔閉塞型大動脈解離は偽腔開存型と同様に胸痛および背部痛を主訴に発症する。画像診断上の定義は次の2点である。

T 三日月型の偽腔を認めること。
U 内膜破綻とそこからの血流の流入を認めないこと、すなわち偽腔と真腔のあいだに交通を認めないこと。
 診断にはCTや経食道心エコー図が用いられるが、先述のように内膜破綻の存在を画像上診断することは困難であるので、実際には偽腔と真腔の間に交通を認めないことが重要である。従って、造影CTで三日月型の偽腔が造影されないこと 10 と経食道心エコー図で交通のないことを確認すること 7 が診断上不可欠である。わずかでも血流があれば、定義上は一般的な大動脈解離すなわち偽腔開存型として扱われるはずであるが、混同していることも多い。図1に偽腔閉塞型大動脈解離と偽腔開存型大動脈解離の違いをまとめた。

偽腔閉塞型大動脈解離が偽腔開存型解離と異なる点

 偽腔閉塞型大動脈解離はいくつかの点で偽腔開存型と異なる特徴を持っている。一番大事な点は偽腔に血流がないことである。従って、偽腔は閉鎖されており、外側に破裂する可能性はあるが、内側に大きくなって真腔を圧排することは少ない。また分枝の閉塞を来すことも少ないと考えられている。こうした、形態上の違いは臨床経過にも影響があるはずである。Songらは、偽腔閉塞型解離は偽腔開存型解離とは臨床上いくつかの点で異なると報告している。11 すなわち、患者背景としてより高齢者が多く、またStanford A型では大動脈閉鎖不全症の合併が少なく、Stanford B型では、慢性期の大動脈径がより小さいと報告している。また同じく、筆者らの報告では、Stanford A型では大動脈閉鎖不全症や脳梗塞等の合併症が少なく12、Stanford B型では、腎不全および腸管虚血という臓器虚血や下肢虚血の合併症の発生が有意に少なかった。13

 もう一つの偽腔閉塞型解離の大きな特徴は、閉鎖した偽腔の形態が変化する点である。閉鎖した偽腔が縮小して完全に消失する症例が多く存在する。その一方で、経過中に偽腔と真腔の間に交通が生じ、そこから偽腔が拡大することもある。11-14 これらの臨床上の特徴は治療方針を考える上で重要である。

偽腔閉塞型大動脈解離の治療方針

 偽腔開存型の急性大動脈解離の治療においては、上行大動脈に解離がおよぶかどうかがポイントで、解離がおよぶStanford A型解離においては緊急の外科治療が、解離がおよばないStanford B型では内科治療が勧められてきた。ところが、偽腔閉塞型の治療に際しては、これらの偽腔開存型の治療方針と同じようにするべきかどうか議論があり、いまだ一定の見解を得てないのが現状である。なかでもStanford A型の偽腔閉塞型解離をどう治療するかについては意見が分かれている。

Stanford A型偽腔閉塞型大動脈解離をどう治療するか?

 Stanford A型の偽腔閉塞型解離に対する治療指針は、緊急手術が必要かどうかで意見が分かれている。国内や韓国では、初期に内科治療をする施設が多いのに対して、欧米や国内でも外科医を中心に、偽腔開存型と同様に緊急手術をするべきだという意見が強い。

 SongらはStanford A型偽腔閉塞型大動脈解離41例に対して、内科治療を施行して、3年生存率が78%という良好な成績を報告している。彼らはこの結果から、合併症のない例では初期内科治療を薦めている。15 本邦でも多くの施設が、初期には内科治療を施行しており、その成績が報告されている。9, 16, 17 筆者らは偽腔閉塞型解離に対しては原則内科治療を施行し、血栓化した偽腔が増大した例と偽腔開存型へ移行した例に対しては緊急(24時間以内)あるいは準緊急手術(2-3日以内)を施行した結果、院内死亡率は7%と低く5年生存率も90%と長期予後も良好であったと報告している。12 これに対して、欧米ではStanford A型偽腔閉塞型大動脈解離は、内科治療の成績は不良で緊急手術を施行する方が良いという意見が強い。1, 4, 7, 18, 19 表1に過去の報告による治療成績をまとめた。この成績の差異が、人種間の違いも含めた患者背景の差によるのか、診断法や内科治療法の違いによるのかは明らかでなく、さらなる検討が必要と考えられる。欧米では、この差異は人種間の差ではないかと考えて、Asian Factorが予後に関係しているのではないかと考察されている。20, 21 確かに、欧米と日本や韓国でこれほど、成績が違うのは不思議ではあるが、一つの可能性として考えられるのは診断精度の差である。日本では、高性能のCTが広く普及し、救急外来での大動脈解離の診断は容易である。従って、比較的偽腔の小さい偽腔閉塞型解離が対象に含まれている可能性が指摘されている。実際、後述するように、偽腔が小さいほど、吸収されて消失することが多く、偽腔が大きいほど、破裂や偽腔開存型に進行することが多い。従って、診断精度の差が、予後の違いにつながっている可能性がある。

 治療に際して注意するべきは、初期に内科治療を選択したとしても、厳重な降圧治療および画像診断による経過観察が必要なことである。前述の筆者らの報告では、約43%の症例で、解離の進行が見られ、手術を施行している。12一方で、大動脈径が50mm以上22 あるいは閉鎖した偽腔の径が11mm以上の例23 は内科治療中に解離が進行する率が高く高危険群と報告されている。従って、偽腔閉塞型大動脈解離の内科治療においては、偽腔の拡大や偽腔開存型への移行に、常に注意を払う必要があり、進行した場合、速やかに手術をすることが望ましいと考えている。

 以上を踏まえて、我々はStanford A型偽腔閉塞型大動脈解離の治療方針について次のように考えている。まず、大動脈閉鎖不全症や心タンポナーデ合併例では緊急手術を考慮する。また、大動脈径が50mm以上あるいは閉鎖した偽腔の径が11mm以上の例では高危険群と考えられ、早期の手術を考慮する。このような高危険群に対して、緊急手術をする方が良いか、あるいは2-3日経過観察して血栓化した偽腔の吸収あるいは退縮が認められなかった時点で手術にする方が良いかどうかは未だ明らかでない。我々の施設では2-3日後の造影CT検査で判断しているが、今後変わる可能性はある。上記以外の症例では初期に内科治療が可能と思われるが、画像診断を頻回に施行して、経過を追うことが重要である。筆者らは発症して2-3日後と一週間前後で造影CTを撮像するようにしている。また経胸壁心エコー図で発症一週間は毎日心嚢水や大動脈弁閉鎖不全症などの合併症について確認するようにしている。急性期は動脈圧ラインを使用しながら厳重な降圧をすることが望ましく、従って、CCUなどの集中治療が可能な場所が望ましい。このようにして厳重に経過をみるなかで、血栓化した偽腔の増大や偽腔開存型へ移行したと考えられる例はすみやかに手術をする方が良いと考える。したがって手術がいつでも可能である状況が望ましい。また早期に手術を行う方がよいとする議論があることも常に考慮に入れて、治療の同意を得ることが望ましい。

 これらの治療方針については、今後、外科治療の成績向上やステントグラフトなどの新しい治療の発展とともに、変わっていく可能性はある。しかしながら、現時点での外科治療の平均的な成績を考慮すると、初期に内科治療を施行して、合併症例や進行する例にのみ外科治療をするという方針が妥当ではないかと考えている。

Stanford B型偽腔閉塞型急性大動脈解離をどう治療するか?

 Stanford B型偽腔閉塞型急性大動脈解離はA型の偽腔閉塞型急性大動脈解離に比して予後良好と報告されている。1 またStanford B型偽腔開存型と比較しても予後良好と報告されている。13 内科治療の成績は、院内死亡率が、0%で、5年の生存率も97%と良好である。また同時に臓器虚血、および下肢虚血といった合併症の発生が偽腔開存型に比して有意に少ないと報告されている。これら合併症が少ないことが、予後が良好な原因であると考えられる。以上のことから、外科療法よりも内科療法が選択されることが妥当である。しかしながら、破裂を含めた合併症の危険性はゼロではなく注意が必要であり、その場合適切な外科治療を行うことも必要である。また、急性期には合併症なく経過しても、慢性期に大動脈径の拡大を認め、手術が必要な症例もあり、経過観察が必要である。特に70才を超える例や、大動脈径が40mm以上の例、ULP(Ulcer Like Projection)の発生を新たに認める例は、偽腔開存型への進行や偽腔の拡大など、進行する危険が高いと考えられている。13, 24

EBMの問題点

 偽腔閉塞型大動脈解離のEBMについて概説したが、問題点について述べたい。一番の問題点はこれらのEBMはすべて、無作為試験の結果に基づくものではないことである。したがって、エビデンスとしては弱い。しかしながら、急性期に手術も含めた無作為試験をすることは、実際には難しいと考えられ、登録試験が今後も中心になると思われる。今後は、多施設での大規模登録試験で検討を重ねていくことが必要と思われる。

【図、表】

表1 :Stanford A型偽腔閉塞型急性大動脈解離における内科治療の成績

図1 :偽腔開存型大動脈解離と偽腔閉塞型大動脈解離の違い


【参考文献】

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