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腹部大動脈瘤手術

名古屋大学大学院医学系研究科血管外科
古森 公浩

はじめに

腹部大動脈瘤(AAA)に対する待機的外科手術成績は向上し、重篤な合併症を有する症例や高齢者にも適応が拡大されている。また、近年ステントグラフトの導入により、腎動脈からの距離が短く腎動脈上遮断が必要な症例など、比較的むずかしい外科手術症例が増加している。本稿では腹部大動脈瘤に対する外科的手術について解説する。

I.手術適応

欧米では径が5.5cmを越えると破裂する可能性が増大すると報告されている。動脈瘤が1年間の観察期間中に破裂する可能性は、最大横径別に見ると表1のようになる。我々は、日本人と欧米人の体格の違いを考慮し、また女性は男性よりhigh riskなことから、女性4.5cm、男性5cmを手術適応としている。また拡張速度が速い場合、手術適応とすることがある。拡張率5mm/6ヶ月以上で手術とする意見が多い。形状では紡錘状より嚢状の方が破裂の危険性が高く、嚢状瘤では径が5cmに達しなくても手術適応となる。

II. 外科手術

症例によってはストレートグラフトで血行再建術が可能な場合もあるが、動脈瘤が腸骨動脈領域にまで及んでいることが多く、ほとんどの場合Y型人工血管による置換が必要である。AAAの手術には腹膜経路(開腹)、後腹膜経路(非開腹)の2種類のアプローチ法がある。本稿では腹膜経路について述べる。

1)消毒、体位

消毒は胸部nippleの少し上から、下肢は術中にも末梢の脈拍触知が可能なように両足先まで消毒し,両足はビニル袋で覆っている。体位は仰臥位で行う。

2)皮膚切開

正中切開(縦切開)を用いている。臍部を中心に上は剣状突起に向け、下方は恥骨に向かって切開する。大動脈瘤の位置、大きさなどで切開を短くするように心がける。

3)動脈瘤の露出

開腹後、腸管を温生食で湿らせたタオルで包み、周囲に圧排して腹部大動脈の前面を露出する。我々は自立型開創器の一つであるオムニトラクトを用い、術野を良好に保つようにしている。十二指腸は十分に頭側に圧排し、その尾側で後腹膜を切開して動脈瘤頸部を露出する。後腹膜の切開の際には、縫い代として後腹膜の一部を十二指腸側に残すと縫合閉鎖が容易である。
 大動脈瘤頸部の露出はこの手術の最も重要な操作である。動脈周囲を十分に剥離することで動脈鉗子を横方向から安全にかけることが可能である。腎動脈上での遮断が必要な動脈瘤では鉗子を縦方向にかける。そのような場合には大動脈全周の剥離をせずに後壁を残して約2/3から3/4周を剥離しテーピングしないことが多い。テーピングに際しては腰動脈を損傷しないように細心の注意が必要である。腰動脈が大動脈遮断の妨げになりそうであれば、あらかじめクリップによる止血あるいは結紮切離を行い、動脈瘤を切開した際の腰動脈からの出血を減少させるように努めている。

4)傍腎動脈腹部大動脈瘤のアプローチ

動脈瘤の拡張が腎動脈直下まで進展している場合、 上腸間膜動脈の末梢、腎動脈の中枢で大動脈の遮断が必要な症例がある。 通常の腎機能であれば30分から60分程度の腎虚血は特に問題はないので単純遮断でよい。 症例によっては大動脈上を横切っている左腎静脈を切離し、術野を確保することがある。 左腎静脈を十分に剥離し、切離後のドレナージ静脈として左副腎静脈、 左精巣(卵巣)静脈を確認し、それらの静脈より下大静脈側で左腎静脈を切離する。 長期で観察しても腎機能にあまり影響は出現しないという報告がされている。 通常は断端を4ー0プロレンで連続縫合にて閉鎖し、再建はしていない(図2a)。 この操作で腎動脈分枝部付近の大動脈が露出できる。また、副腎静脈と精巣静脈を結紮切離し 左腎静脈の授動をしてこの部の視野を確保する方法がある(図2c)。さらに頭側に瘤の拡張が及び、 腹腔動脈中枢での大動脈遮断を要する可能性がある症例では後腹膜経路が第一選択である。

5)腸骨動脈の剥離

大動脈は第4腰椎付近で左右の総腸骨動脈に分かれる。 尿管は左右の総腸骨動脈前面を走行しているので、必ず確認し必要に応じてテーピングする。 右総腸骨動脈の後方を左腸骨静脈が走行して右腸骨静脈と合流してから下大静脈となる。 特に、動脈周囲の炎症が有る場合は動脈と静脈の癒着があるため背側の剥離は慎重に行い、 静脈損傷をしないように気をつける(図3、4)。 癒着が高度の場合には、鉗子で縦に遮断できる程度の剥離に留める。 左総腸骨動脈を大動脈側から剥離する場合には大動脈周囲の神経叢に気を付ける。 (S状結腸外側から到達する際には、S状結腸の腹膜翻転部に沿って切開を加えて後腹膜腔に入る(図4.b) 。
 内腸骨動脈瘤を合併している際には、その剥離には注意が必要である。内腸骨動脈瘤が小さく、 末梢側の内腸骨動脈の露出、テーピングが可能な場合には問題はない。 動脈瘤が大きくて、末梢側の内腸骨動脈の剥離が困難な場合には、瘤を切開したあと、 5Fr程度のバルーンカテーテルを内腔から挿入して末梢からの出血を止める方法がある。 また、末梢からの出血を止めずに内腔から末梢側の内腸骨動脈の開口部を3—0プロレン糸による連続縫合で止血する。 このback flowによる出血が思いがけず大量なことがあるので、十分に吸引し内腸骨動脈末梢側の開口部を確認することと、 瘤の切離の際、尿管を傷つけないように前もって尿管をできるだけ確認し、瘤から剥離しておくことが重要である。
 大動脈の手術時に大動脈周囲の神経叢はできるだけ温存する。男性においてL1—L2の高さでの 両側の交感神経の障害はimpotencyを引き起こし、大動脈分岐部にある上下腹神経叢(L2—L3)の損傷でretrograde ejaculationが生じる。 

6) 下腸間膜動脈(IMA)の剥離およびクランプテスト

IMAを剥離しテープでコントロールする。ブルドッグ鉗子でIMAを遮断および解除し、 ドプラ血流計を用いS状結腸のmarginal arteryの音の変化を聴取する。

7)へパリン全身投与と血流遮断

大動脈、腸骨動脈など剥離が終了した後、大動脈遮断前に、一度十分な止血操作を行う。 そのあと、体重あたり約50単位のへパリンを全身投与後ACT (activated clotting time)が200を越えたあと大動脈遮断を行う。 まず、末梢側を遮断した後、最後に大動脈遮断を行う。 大動脈鉗子は縦にかける場合には助手に腰椎に押しつけるように持ってもらう。 遮断部位近くの大動脈の石灰化の有無を十分に検索したあとに石灰化のない部位での遮断を試みる(図5)。 また、大動脈鉗子には万が一はずれても大出血しないように太い糸で結んでおくようにしている。 大動脈の拍動が触知できなくなるところで遮断を止める。

8)大動脈瘤切開と腰動脈の止血

大動脈瘤切開は瘤壁の止血も兼ね電気メスで行う。 腰動脈からの出血は助手に押さえて止血してもらい、その間にZ吻合で縫合止血する。 石灰化が強いときにはペアンなどで瘤壁を砕いた後、止血縫合する。 大動脈瘤頸部の腰動脈は前もって血管クリップなどで結紮しておくと瘤切開時に、back flowがなく中枢側吻合が容易になる。

9)中枢側吻合

吻合の際に瘤壁を開創器で広げてやると吻合が容易になることがある(図6a)。 腎動脈からの距離が短く余裕がない症例や血管の内腔の動脈硬化が強い症例などでは、 大動脈を離断せずに後壁を3分の1周程度、残してintraluminalに吻合する。我々は、 後壁1点支持で吻合している。まず、後壁中央に3−0プロレンをマットレス縫合し、 フェルトで補強する。この1針を深くかけることが重要で、縫合した後、その部位が持ち上がって“どて”を形成し、 その後の縫合が容易になる(図6b)。その後両端針をそれぞれ右側から、左側からそれぞれ前壁側に縫合する(図6c)。 離断した場合、症例によってはダクロンフェルトで補強する。まず後壁真ん中にフェルトを固定し、 その後フェルトとグラフトを一緒に縫い合わせ後壁1点支持で吻合する。パラシュート法で縫合することもあるが、 糸がゆるむことがあるので糸を結ぶ前にnerve hookで十分に糸を引っ張って結ぶ。
 吻合後遮断鉗子をグラフト側に移動させ出血の有無をみる。出血のないことを確認した後、 血液をflush outさせdebrisを除去する。その後グラフト内をヘパリン加生食で十分洗浄する。

10) 末梢側吻合

straightの場合は中枢側と同様に3−0プロレンを用いて後壁1点支持連続吻合を行う。 遮断解除の場合は末梢側を解除し、その後一旦、中枢側の遮断を解除し、 血液をflush outさせdebrisを除去する。その後、血圧を確認しながらdeclamping shockに注意して、中枢側クランプを徐々に遮断を解除する。
腸骨動脈とは端端吻合を、少なくとも片側は出来うる限り行うようにしている。 というのは将来心疾患合併などで心臓カテーテル検査などがしやすいようにするためである。 その際、4−0プロレンによる後壁1点支持を行う(図7)。 総腸骨動脈の石灰化が高度で端端で縫合できない場合には総腸骨動脈を3-0プロレン連続縫合で閉鎖し外腸骨動脈に端側吻合する。 端側吻合の場合には人工血管の1.5倍前後の吻合口を切開し口側に1点支持、 その後両側連続吻合のあと、足側に1点縫合しその後側壁を吻合して結び目を両外側に置くようにしている(図8)。
 また総腸骨動脈が瘤化して端端で縫合できない場合には、内腸骨動脈を再建する。 その再建方法にはYグラフト脚を直接内腸骨動脈に吻合し、外腸骨動脈を脚に吻合する場合やYグラフト脚を外腸骨動脈に端端吻合し、その脚に内腸骨動脈を直接あるいはグラフトをInterposeする方法がある(図9)。
 遮断解除はまず、末梢側を解除して吻合部位の針穴からflushしたあとまた遮断後、 中枢側を解除しdebrisをflush outさせる。その後、血圧に気をつけながら大動脈遮断を解除する。

11) IMA再建

すべての吻合が終わり、後腹膜を閉鎖する前に、再度ドプラ血流計を用いS状結腸のmarginal arteryの音を確認する。内腸骨動脈瘤合併例でも、内腸骨動脈を極力再建するようにしているので、 実際にIMAの再建が必要になるケースは少ない。もしドプラ音が聞こえなければ,、あるいは腸管の色調の変化が認められれば躊躇なくIMAを再建する。Yグラフトの胴体か左脚にパラシュート法にて端側吻合を行う(図10)。

12)止血、閉創

吻合部からの出血だけでなく、剥離面や動脈瘤壁などからの出血に留意する。 瘤壁の止血目的で3-0proleneを用いて瘤壁の連続縫合を行う。
 腹壁を閉じる前に、必ず末梢の脈拍を触知し下肢の血流を確認する。その後、十分な止血を確認後、後腹膜を3-0バイクリル連続縫合にて閉鎖する。ドレーンは原則的には入れない。ガーゼの枚数を最終確認後、腱膜をPDSで縫合し、腹壁はスキンステープラーで閉創する。

終わりに

腹部大動脈瘤の外科的手術について解説した。腹部大動脈瘤の待機手術は、すでに確立された方法で安全に行われるようになった。しかし、大血管、特に動脈硬化性病変の著しい動脈の操作には、慎重な剥離や縫合手技が必要であるのはいうまでもない。また、日本でも市販のステントグラフトが使用されるようになりステントグラフト症例が急速に増加している。今後動脈瘤の手術例は、手術手技が困難な症例が増加していくと思われる。よって、ひとつひとつの外科手術症例を大事にして技術を向上していくことが重要である。


参考文献
  1. 古森公浩: (心臓血管外科テクニック II大血管疾患編 メディカ出版)
    腹部大動脈瘤 74-95,2008
  2. 古森公浩: 腹部大動脈瘤の診断と治療. 大動脈瘤・大動脈解離診療のコツと落とし穴。
    中山書店、94-95, 2006
  3. 古森公浩: 循環器教育セッションⅢ 大動脈・末梢動脈疾患の現状と新しい展開 腹部大動脈・末梢動脈外科の現況
    循環器専門医 11 97-102, 2004
  4. 古森公浩: 腹部大動脈瘤:待機手術 血管外科基本手技アトラス、99-108
    南山堂2007
  5. 古森公浩: 腹部大動脈瘤の外科治療:到達法とその選択、標準血管外科、41-46
    メデイカルトレビューン社、2006
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