会員専用ページ | English
HOME > 手術手技と解説(血管)> ステントグラフト内挿術

ステントグラフト内挿術

東京医科大学血管外科
島崎 太郎、重松 宏




1.はじめに

図1:本邦で使用可能なステントグラフト
図1:本邦で使用可能なステントグラフト

腹部大動脈瘤に対する低侵襲治療であるステントグラフト内挿術は、1991年にParodiらが最初の治療成功例を報告した後、企業製造デバイスの開発が進み、1993年に米国ではAncure(Guidant社)の臨床試験が開始され、1999年にAncureおよびAneuRx(Medtronic社)がFDAの認可を得た。さらに新たなデバイスとして2002年にExcluder(Gore社)、翌2003年にZenith (Cook社)がFDA認可を受けている。2003年6月にAncureは市場より撤退し、2004年にはPowerlink (Endologix社)がFDA認可を得ており、本原稿執筆時点でAneuRx、Excluder、ZenithおよびPowerlinkの四製品が米国にて使用可能となっている。 本邦においては、2006年7月にZenith-AAAが企業製デバイスとして初めて厚生労働省の認可を得、2007年1月 Excluder、2008年3月Powerlinkが認可され、3種類のデバイスが選択可能となっている(図1)。

2007年6月に日本脈管学会、社団法人日本循環器学会、特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会、特定非営利活動法人日本血管外科学会、日本血管内治療学会など関連11学会にてステントグラフト実施基準管理委員会( http://www.stentgraft.jp/) が設立された。これにより、ステントグラフト実施施設基準、実施医基準、指導医基準が定まると共に、治療の追跡調査および分析がなされる事となった。実施医および指導医はデバイス別に認定され、実施医認定の為には腸骨動脈領域における血管内治療や大動脈瘤治療の基礎経験を委員会にて審査された後に、企業の研修プログラムを受講し、更に実技審査を受ける必要がある。

2.適応

本邦における腹部大動脈瘤の治療においては、従来手術の成績が安定していることから、第一に人工血管置換術を考慮し、ステントグラフト内挿術は合併症を有するハイリスク症例などに施行されており、企業製デバイスの取扱説明書にもその旨が記載されている。治療成功の為には解剖学適応を十分に理解し検討することが必要とされるが、中枢側ランディングゾーンの距離、屈曲、病変のないアクセスルートなどから、解剖学適応の全てを満たす症例は全症例の30~40%と考えられている。

3.手技

図2:解剖学的適応
図2:解剖学的適応

治療は基本的に血管造影装置が配置された手術室もしくは清潔度の高い血管造影室で行われる。麻酔は、術中トラブルによる開腹手術への移行を考え、全身麻酔が推奨されるが、ハイリスク症例では局所麻酔や硬膜外麻酔を選択することも可能である。各デバイスにより必要とするアクセスルート最少径は異なる(図2)が、いずれのデバイスにおいてもアクセスルートとしては大腿動脈からのアプローチがカテーテルの操作性の点から勧められる。皮膚を斜切開し、皮下組織剥離後に大腿動脈のテーピングを行う。大腿動脈の中枢および末梢側を遮断後に横切開し、デバイスのメインシースを挿入し、ターニケットにて固定し挿入部からの出血を予防する。なお、血栓形成予防の為に大腿動脈遮断前にはヘパリンを50~60単位/kg静脈投与し、活性化凝固時間(ACT)を200秒以上に維持する。

ステントグラフトの放出、留置およびカテーテル回収方法はデバイスごとに全く異なるため、その操作詳細については取扱説明書を参照されたい。各々のデバイスの特徴を述べるとZenithはメインボディ、同側レッグおよび対側レッグの3ピースであり、その組み合わせによりバリエーションが豊富であることから、その適応は広い。またマイグレーション(位置移動)予防を目的としてメインボディの中枢側にバーブ付のベアーステントを有している。Excluderの特徴としては留置手技が簡便なことが第一にあげられる。ディプロイメントの際にはシースを必要とせず、ステントグラフトを包み込んでいるスリーブを固定しているノブを引くだけで瞬時の内に留置が完成する。またPowerlinkは一体型デバイスであることから、脚接合部のエンドリーク(瘤内への血液の漏れ)がなく、更にボディ分岐部が腸骨動脈分岐部に騎乗する様に留置されることから、末梢側への移動が予防できると考えられている。

デバイス留置完了後にはシース抜去し、大腿動脈切開部を縫合した後、動脈遮断を解除し血流再開する。また、プロタミンにてヘパリン中和を行い、ACTが正常域にあることを確認する。

4.術後

図3:エンドリーク(動脈瘤内への血液漏出)
図3:エンドリーク(動脈瘤内への血液漏出)

ステントグラフト内挿術は低侵襲治療であるため、患者の術後経過は良好であり、通常第1病日には経口摂取および歩行が可能である。造影CTを術後2週間前後に行い、治療効果(エンドリークの有無、ステントグラフト変形など)を判定する。エンドリークはtype I~IVに分類される。type I はステントグラフトとランディングゾーンにおける血管壁の間を通じた瘤内への血液の漏出であり、治療効果としては不十分である。type II は下腸間膜動脈や腰動脈から瘤内への逆行性血流によるものであり、瘤の拡大傾向を認めなければ経過観察で可能である。type III はステントグラフト接合部を通じた瘤内への血液漏出であり、追加治療が必要である。type IV はグラフト自身から瘤内への血液の滲み出しによるものであり、拡大傾向のある場合は追加治療が必要となる(図3)。

本治療では中期以降に追加治療を必要とする頻度は高く、open surgeryとの比較試験であるEVARトライアルでは術後4年間合併症累積発症率は41% vs 9%とSG群が高く、22830症例を対象としたMedicare研究でも4年間動脈瘤関連再治療率は1.7% vs 9%とSG群にて高値であった。

5.最後に

本治療の歴史は浅く、標準的治療である人工血管置換術に匹敵するだけの長期成績を得るにまで至っていない。現在のところ腹部大動脈瘤に対する治療法の選択としては、従来手術の成績も安定していることから、第1に人工血管置換術を考慮し、ステントグラフト内挿術については合併症を有するハイリスク症例など限定された症例に施行されている。しかし、今後、中・遠隔期成績の評価や新たなデバイスの登場によってその適応が拡大する可能性は高いと考えられる。


PAGE TOP ▲