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腋窩動脈バイパス術

川崎医科大学胸部心臓血管外科
正木 久男

手術手技

1. 腋窩―大腿動脈バイパス

適応

腋窩―両側大腿動脈バイパスは、病変が両側腸骨動脈閉塞ないし腹部大動脈閉塞で、しかも全身状態が不良である場合、解剖学的ルートに感染がある場合、緊急手術の場合に用いられる。 この方法は、侵襲が少ない利点があるが、日常生活の制限、開存成績が解剖学的バイパスより劣る欠点がある。腋窩―大腿動脈バイパスと大腿―大腿動脈交叉バイパスでは、前者はlong bypassになるため後者のほうが開存成績は良好である。また後者の方法は局所麻酔でも施行できるため緊急手術の際に有用である。近年、両側腸骨動脈病変に対してinflowをPTA、ステントで治療し、大腿―大腿動脈交叉バイパスを施行する場合が多くなってきた。さらに最近では、腸骨動脈閉塞病変でも血管内治療をまず行い、不成功に終われば、上記のバイパスを施行する傾向である。両側腋窩―大腿動脈バイパスと腋窩―両側大腿動脈バイパスでは、後者のほうが開存率が高いので後者が用いられる。左右の腋窩動脈の選択に関しては、上肢の血圧に左右差がなければ、右を選択する。

術前準備

腋窩―大腿動脈バイパスの対象となる疾患は、全身状態が不良なため、われわれは、人工血管感染を防止すため、待機手術であれば、前日からイソジンゲルを鎖骨下および両鼠径部に塗布しガーゼでカバーしておく。さらに0.1%リファンピシン液200mlを作成しておく。

腋窩―両側大腿動脈バイパスの手技
腋窩動脈の露出

仰臥位で上肢を体側につけて、まず鎖骨中央部1cm下方からやや斜め下方に向かう約7cmの皮膚切開をおく。皮下組織を剥離し、大胸筋を筋線維方向に切開、開排し、腋窩静脈より後方に腋窩動脈を認め、テーピングする。注意点はテープを強く牽引すると腋窩動脈の内膜は断裂するため愛護的に行う。

総大腿動脈の露出

鼠径靭帯から下方に約7cmの皮膚切開をおき、総大腿動脈、深大腿動脈、浅大腿動脈を露出し、テ-ピングする。

ルート作成
図1:腋窩―両側大腿動脈バイパス(以前の症例)
図1:腋窩―両側大腿動脈バイパス(以前の症例)

以前は、ルートとして、途中に2箇所皮膚切開をおいて、大胸筋の下を通していた( 図1 )。最近では、時間の短縮ために下記に示しているようにあらかじめ人工血管が吻合してあるY字の人工血管を使用するため途中に皮膚切開をおかずに中枢側からトンネラーを筋膜上で、前腋窩線よりやや内側で人工血管を通す。あまり前方を通すと座位をとったときに肋骨弓の部位で屈曲する恐れがある。注意する点は、トンネラーの挿入で層を間違えないようにすることが重要で、むやみに行うと開胸になったり、肝臓損傷をきたす場合もある。

使用するグラフト
図3:術後造影
図3:術後造影
図2::Gelsoft ERSR ® (10mm×8mm×8mm)
図2:Gelsoft ERSR ® (10mm×8mm×8mm)

人工血管はバンドや体位により圧迫を受けるため、リング付の人工血管を用いる。サイズは8ないし10mmを用いて、術中に対側用のグラフトとグラフト吻合し作成するが、われわれはあらかじめY字に作成されたリングつきシールドダクロン人工血管(Gelsoft ERSR ®)を使用している。この人工血管は中枢側10mm、末梢側が8mm,8mmとなっている( 図2 )。このため手術時間が短縮でき、しかもY字なため自然な動脈の流れとなる( 図3 )。さらにわれわれは、人工血管感染の防止にため、人工血管をゼラチンに親和性のあるリファンピシン液に約30分浸漬させて使用している。

吻合手技

ヘパリン0.1mg/kg投与し、ブルドック鉗子あるいはサテンスキータイプの鉗子で動脈を遮断する。すでにグラフトをルートに通している場合の腋窩動脈の吻合は、5.0のポリプロピレン糸を用いて1点支持で後壁からはじめて連続吻合する。末梢は、通常総大腿動脈で、場合により深大腿動脈に吻合する場合もある。いずれも5.0のポリプロピレン糸で吻合する。

術後管理

ヘパリン(10000単位/日)ないしアルガトロバン(20mg/日)とプロスタグランディンE1 120ug/日を3-4日行いその間にワーファリン、抗血小板剤(塩酸チクロピジン300mg/日ないしシロスタゾール200mg/日)を開始する。ワーファリンは一応3ヶ月投与している。心房細動などの不整脈がなければ、その後は抗血小板剤のみ投与する。抗生物質も約5日間程度投与する。

特異的な術後合併症
  1. 人工血管感染
    発熱、局所の発赤、熱感、腫脹がみられたら人工血管感染を考えて、抗生物質の投与、局所の冷却を行うが、これのみでは大部分改善しない、そのためルートの途中であれば人工血管を切除し、迂回ルートで新しい人工血管で置換する。鼠径部感染であれば、閉鎖孔バイパスを考慮する。
  2. 血清腫(seroma)
    人工血管の外壁に形成された血清貯瘤嚢で、内容が粘張性ゼリー状である。人工血管上に球状の腫瘤を認める。治療は人工血管とともに摘出し、種類の異なる人工血管で置換する。

2. 腋窩―腋窩動脈バイパス

適応と手技

腕頭動脈や鎖骨下動脈の閉塞に適応ある。ただ血管内治療の進歩によりしだいに減少してきている。この術式は、動脈の露出が簡単で、頚動脈を遮断する必要がない利点を有している。ただ将来胸骨縦切開で行う手術のときに切り離さざるをえないことがある。

図4:術後MRA
図4:術後MRA

手技は腋窩―両側大腿動脈バイパスの手技で述べたように腋窩動脈の露出を行い、テーピングする。ルートは前胸部の皮下とし、運動などにより遠隔期に腋窩動脈が牽引された状態になることがあるため、胸骨上は第2肋間を目安に、やや人工血管に余裕を持たせておくことが必要である( 図4 )。術後管理もほぼ同様である。


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