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心破裂(左室自由壁破裂)

埼玉医科大学 名誉教授
許 俊鋭


1.はじめに

心破裂には、外傷性心破裂(鈍的外傷、鋭的外傷)、急性心筋梗塞に続発する左室自由壁破裂、僧帽弁人工弁置換後の左室後壁破裂などがあり、破裂とともに急速に心タンポナーデに陥り、迅速かつ適切な手術治療が施されなければ死に到る。その中で左室自由壁破裂は急性心筋梗塞症例の3~10%に発症するとされ、治療成績は極めて不良であり急性心筋梗塞死亡症例の15%に昇る(1)。自由壁破裂は大きく"blow-out type" と" slow rupture type"の2つに分類され、急性期を克服し慢性期に至った症例では"false aneurysm"を形成する(2)。心原性ショックに陥った左室自由壁破裂症例では緊急開胸により破裂部修復に成功しても、縦隔炎や脳障害の合併頻度は極めて高く、最終的に救命できないことが多い。本邦では急性心筋梗塞の多くが、内科専門病院で治療される現状にあり、自由壁破裂と診断がついても内科医にとって治療は困難を極める。

2.急性心筋梗塞後の左室自由壁破裂の発症要因と病態

疫学的には以下のような特徴が挙げられる。

  1. 高齢者ほど発症しやすく、女性に多い。
  2. 正常血圧の患者より高血圧の患者が多い。
  3. 自由壁破裂が右室自由壁破裂より7倍多く、心房破裂は稀である。
  4. 左前下行枝(LAD)領域末梢の前壁または側壁に発症しやすい。
  5. 左室の20%以上の範囲に及ぶ貫壁性心筋梗塞に合併しやすい。
  6. 急性心筋梗塞発症後1日~3週間で発症するが、1~4日の発症が多い。
  7. 心筋壊死領域で菲薄化した左室拡張領域が破裂しやすい。
  8. 破裂部は限局した裂隙を呈するか、血腫形成し心筋解離を生じている。
  9. 梗塞中央部よりも正常領域との境に発症しやすい。
  10. 初回急性心筋梗塞症例に発症しやすい。

急性心筋梗塞に対して血栓溶解療法(thrombolysis)やdirect PTCAが盛んに施行されるようになり自由壁破裂の頻度が増加したという意見もある。血栓溶解療法やdirect PTCA後の抗血栓療法は出血性梗塞部の心外膜面からの染み出し(oozing)を助長すると予測される。

3.左室自由壁破裂に対する急性期治療

左室自由壁破裂に対しては緊急開胸による心タンポナーデ解除と破裂部の修復がゴールドスタンダードとされるが、即座に外科的対応が取れる施設は限られている。また、緊急手術を行えたとしても急激な心停止による脳障害と緊急開胸による縦隔炎などの感染症による致命率は極めて高い。急激な心停止に対処する方法として①PCPSを用いて血行動態を確保する、あるいは②心嚢ドレナージにより心タンポナーデを解除して血行動態を回復させるかの方法が取られる。

図2:自由壁破裂症例の破裂部修復治療成績(文献4)
図2自由壁破裂症例の破裂部修復治療成績(文献4)
PFGI=percutaneous fibrin-glue infusion therapy(経皮的フィブリン糊充填療法)
FG= fibrin-glue therapy(フィブリン糊修復法)
図1自由壁破裂症例の心原性ショックに対する抗ショック治療成績(文献4)
図1自由壁破裂症例の心原性ショックに対する抗ショック治療成績(文献4)
PCPS=percutaneous cardiopulmonary support(経皮的心肺補助)

我々が行った厚生省班研究による5年間の全国アンケート調査(4)では、急性期に積極的治療が施行された318例中38.1%に心嚢ドレナージが施行され53.7%の救命率が得られたのに対して、PCPS補助は17.9%に施行され救命率は29.8%であった(図1,図2)。もちろん、病態の差も考慮されなければならないが、自由壁破裂に対して多くの施設で内科医が即座に実施できる治療は"心嚢ドレナージ"であり、極めて重要な抗ショック療法である。心エコー図ガイド下の心嚢ドレナージは容易であり、太目のCVPカテーテル(14~16G)の先端5cmの範囲に複数の側孔をあけて、左室後壁に沿って心嚢内に留置させる事で良好なドレナージを行う事が出来る。

図4:自由壁破裂症例(52歳, 男性)の手術時の所見。の経皮的フィブリン糊充填療法施行後ではあるが、心嚢内の癒着は通常の再手術症例と同等で剥離に困難は無かった(図4右)。左室後壁に心エコー図や左室造影で見られた仮性左室瘤が観察される(図4左)。
図4自由壁破裂症例(52歳, 男性)の手術時の所見。の経皮的フィブリン糊充填療法施行後ではあるが、心嚢内の癒着は通常の再手術症例と同等で剥離に困難は無かった(図4右)。左室後壁に心エコー図や左室造影で見られた仮性左室瘤が観察される(図4左)。
図3:自由壁破裂症例(52歳, 男性)の経皮的フィブリン糊充填療法施行後遠隔期の左室造影および冠動脈造影。左室造影で左室後壁の破裂部に一致して仮性左室瘤が見られる。冠動脈造影では右冠動脈が完全閉塞し左主幹部に高度狭窄が見られる。
図3自由壁破裂症例(52歳, 男性)の経皮的フィブリン糊充填療法施行後遠隔期の左室造影および冠動脈造影。左室造影で左室後壁の破裂部に一致して仮性左室瘤が見られる。冠動脈造影では右冠動脈が完全閉塞し左主幹部に高度狭窄が見られる。

PCPSを準備できる施設は、持続する出血に備えて心嚢ドレナージと平行してPCPSの準備や手術室への搬送準備も重要である。次に心破裂部修復法について、我々は心嚢ドレナージに引き続いて経皮的心嚢内フィブリン糊充填療法を施行する治療方針を提唱(5)しており外科的修復よりも良好な成績を得ている。特に"slow rupture type"あるいは"oozing type"は経皮的心嚢内フィブリン糊充填療法で最終的救命が得られる症例も本邦諸施設からの追試報告がなされている(6,7)。もちろん、手術室や体外循環装置が直ちに使用可能な場合は、心臓外科チームが直ちに開胸手術を実施することが最善である。しかし、外科手術が即座に実施できない場合、心タンポナーデに対しては心エコーガイドによる心嚢ドレナージが最も迅速に実施できる抗ショック療法であり、破裂部修復として心嚢内フィブリン糊を注入する事で"slow rupture type"では十分に破裂部の修復は可能な症例も多い (図3,図4)。


文献
図表説明
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