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低左心機能症例に対する左室形成術

葉山ハートセンター
磯村 正




はじめに

冠疾患合併症治療のうち、左室瘤にたいする左室形成術は瘤切除、左室の直線的縫合に変わり、1980年台にJateneら(1), Dorら(2)により、左室を形成する術式がとられるようになっていた。この方法を低左心機能症例の虚血性心筋症(ICM)にも応用し、長期予後の改善を図ることを示したのがDorらである(3)。本稿では虚血性心筋症に対する左室形成術について解説する。

虚血による低心機能の発生機序

冠動脈のうちICM発生例では急性期には内科的治療を受けている例で、LAD領域の虚血あるいはカテーテルインターベンションなどによる虚血改善後に同領域の無収縮が存在するために左室全体が経年的に拡張し、終末像として左室の彌慢性無収縮により、心不全を繰り返すようになる。

左室形成術

図2.Batista手術(Partial Left Ventriculectomy; PLV)
図2.Batista手術(Partial Left Ventriculectomy; PLV)
図1.Dor手術(Endo Ventricular Circular Patch Plasty:EVCPP)
図1.Dor手術(Endo Ventricular Circular Patch Plasty:EVCPP)

A. Dor手術と同様に左室を前下行枝左側に沿って心尖部から切開し、心基部近くまで大きく切開する。ついで、中隔側、前壁側に0-TICron糸を用いU字にの結節縫合により、健常部との境をする。
B.同部に長楕円形にトリミングしたHemashieldパッチを縫着し、C.結紮する.D.最後にパッチの上部の切開した心筋を縫合閉鎖する.

図3.SAVE手術(Septal Anterior Ventricular Exclusion)
図3.SAVE手術(Septal Anterior Ventricular Exclusion)

Dorらは1985年に左室瘤にたいして前壁中隔側にパッチを用いて左室形成を行う術式を考案し、endoventricular circlar patch plasty(EVCPP)と名づけて行っていた。このような術式をICM例にも応用している。(図1)この方法は前壁中隔のakinesisの強い症例に有効で、多くの低左心機能を伴うICM症例に応用できる。しかしながら、時として後側壁梗塞を中心としたリモデリングが発生しICMとなる例もあり、この場合には左室部分切除術(Batista手術、4)の適応となり、後側壁切除縫合する必要がある(図2)。Dor手術を行うとFontane Stitchのため、長軸方向へ左室が短縮され、術後に左室形態が円形となり、本来の楕円形(ラグビーボール状)となる症例において著者は前壁中隔を大きく長楕円形パッチを用いて収縮する方法を考案し、septal anterior ventricular exclusion (SAVE)法としておこなっている。(図3)

合併手術

図4.左室拡大に伴っておこる僧帽弁閉鎖不全に対する僧帽弁形成術
図4.左室拡大に伴っておこる僧帽弁閉鎖不全に対する僧帽弁形成術

すでにカテーテルインターベンションなどにより、虚血の改善されているものもあるが、多枝病変では、可及的に冠動脈完全血行再建をおこない、また、僧帽弁閉鎖不全を合併する例では術前1-2度の逆流例でも僧帽弁形成術(MVP)を施行する。MVPは前後尖のannuloplastyを行う。この際、26-28mmのundersized Carpentier-Edwards physio ringを用い、undersized ringで弁輪が縫縮され、弁輪組織の亀裂を避けるため、図4のごとく、U字縫合の糸を交差させるようにcross-over techniqueを用いている。さらに最近乳頭筋間の拡大例ではtethering改善のために左室切開後両側の乳頭筋を縫縮する術式を開発し施行している。

考案

従来は低左心機能症例に対する冠動脈血行再建を行うために、心筋保護法が議論されていたが、近年off pump CABGにより、重症例でも低リスクで手術が可能とされているが、このような例では左室が小さく、虚血の改善のみによりviabilityが改善可能な例である。しかし、本稿で述べているICM例では心拡大が著明で、off pump CABGでは脱転などpositioningが不可能で、ICM症例を合併症少なく行うために、CABG,左室形成、僧帽弁形成を短時間の虚血(大動脈遮断)で完全に修復することが必要である。心筋保護はtepid blood cardioplegia(5)を用い心停止後CABG,MVPを施行した後、心拍動下に左室形成術を施行することにより虚血時間は自経験例では56±27分と短縮した(6)

また、心拍動下に左室を切開すると、用手的に(finger palpation)左室の拍動、kinesisを触診でき、exclusionする部位を正確に決めることが可能である。これまでの報告例ではDorら(3)のakinesis 51例,Menicantiら(7)の46例、,Calafioreら(8)49例での病院死亡はそれぞれ、10%、15%、4.2%、5年生存率はそれぞれ、45%、63%(30ヶ月)、78%である。著者の114例では病院死亡8.7%、遠隔期には5年生存率62.3%であり、殊に待機手術例ではそれぞれ4.2%、68.5%であった。このため、手術成績を向上させるためには虚血時間の短縮のみならずできる限り術前状態を安定させて行うことが重要である。

近年両室ペーシング法(CRT)により、DCM例で左室の拡張、心機能、さらにはMRの改善することもあるが、ICM例ではCRTの適応例は多くない。ICM例ではCABGに加え、左室形成術、僧帽弁形成術により、低左心機能が改善し、長期予後改善が期待できる例が少なからず存在しうる。


文献
  • Jatene AD : Left ventricular aneurysmectomy; Resection or reconstruction. J Thorac Cardiovascular Surg 89 :321-331,1985
  • Dor V et al. : Interest of 'physiological'closure (circumferential plasty on contractile area) of left ventricle after resection and endocardectomy for aneurysm or akinetic zone; Comparison with classical technique about 209 left ventricular resection. J Cardiovasc Surg 26:73-80, 1985.
  • Dor V, Sabatier M, DiDonato M,Nontiglio F, et al: Efficacy of endoventricular patch plasty in large postinfarction akinetic scar and severe left ventricular dysfunction :comparison with a series of large dyskinetic scars. J Thorac Cardiovasc Surg 116:50-59,1998.
  • Batista RJV, Santos JLV, Takeshita N, et al: Partial left ventriculectomy to improve left ventricular function in end-stage heart disease. J Cardiac Surg 1:96-97,1996
  • Hayashida N, Isomura T, Sato T, Maruyama H, Higashi T, Arinaga K Aoyagi S; Minimally Diluted Tepid Blood Cardioplegia, Ann Thorac Surg 65:615-21,1998
  • Isomura T, Suma H. On-pump beating heart surgery for dilated cardiomyopathy and myocardial protection. Black well Publishing 160-166,2004
  • Menicanti,L,. DiDonato M, Mfrigiola A et: Ischemic mitral regurgitation: Intraventricular papillary muscle imbrication without mitral ring during left ventricular restoration. J Thorac Cardiovasc Surg 123:1041-1050,2002
  • Calafiore AM, Gallina G ,Di Mauro M, et al : Mitral valve procedure in dilated cardiomyopathy: repair or replacement?:Ann Thorac Surg 71:1146-1152,2001
【脚注】
  • 図1.Dor手術(Endo Ventricular Circular Patch Plasty:EVCPP)
    a. 左室を前下行枝左側に沿って心尖部から切開し、病変部と健常な心筋の間に2-0ProleneでFontane Stitchを置く。b.これを結紮し、3cm程度の欠損口ができ、この部にHemashield patchを用いてパッチ形成を行なう。c.最後にこのパッチの上部を切開した心筋を縫合閉鎖する。
  • 図2.Batista手術(Partial Left Ventriculectomy; PLV) 左室の後側壁の障害が強い場合、後側壁を部分的に切除し、縫合することにより、拡張した左室の直径を縮小させ、収縮力を増すことをねらいとした術式である.
  • 図3.SAVE手術(Septal Anterior Ventricular Exclusion) A. Dor手術と同様に左室を前下行枝左側に沿って心尖部から切開し、心基部近くまで大きく切開する。ついで、中隔側、前壁側に0-TICron糸を用いU字にの結節縫合により、健常部との境をする。B.同部に長楕円形にトリミングしたHemashieldパッチを縫着し、C.結紮する.D.最後にパッチの上部の切開した心筋を縫合閉鎖する.
  • 図4.左室拡大に伴っておこる僧帽弁閉鎖不全に対する僧帽弁形成術 左室拡大による僧帽弁閉鎖不全の原因は弁輪拡大(後尖部のみならず前尖trigone間も拡大)及び弁下部組織の牽引(Tethering)により、MRが増強する。手術の際には麻酔の影響により弁逆流が過少評価されるので注意を要す。弁形成は後尖弁輪部から前尖側に向かい前周性に弁輪部に2-0TICronでU字縫合をおき、#26あるいは#28の小さいサイズのリングを用いて弁輪形成術を行なう。この際、リングが小さいため、組織の亀裂を防ぐためにU字縫合の糸を互いに交叉させながら縫合する(Cross-over technique).
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