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心房細動手術(メイズ手術)

日本医科大学 心臓血管外科
新田 隆




心房細動は心臓大血管手術患者にしばしば合併し、術後、脳梗塞などの血栓塞栓症や心機能低下を生じ、QOL低下だけでなく生命予後にも影響を及ぼす。近年、高周波アブレーションデバイスの登場によって、従来は複雑で難易度の高かった心房細動手術が比較的容易かつ安全に施行されるようになった。しかし、デバイスの不適切な使用では不完全な伝導ブロックを生じ、その結果、術後心房細動の再発や心房頻拍の発生を来たす可能性があるため、各デバイスの特性と心房細動手術に必要な解剖を十分理解しておく必要がある。

1. 手術適応

表1に日本循環器学会、不整脈の非薬物療法ガイドライン2006年度改訂版の抜粋を示す。僧帽弁疾患では心房細動を高率に合併し、僧帽弁形成術や人工弁置換術を行う際に心房細動手術を併施することにより、術後脳梗塞発生率の有意な低下が認められることが多くの研究で示されている。特に僧帽弁形成術と心房細動手術の同時手術では、術後遠隔期の脳梗塞発生率低下だけでなく、抗凝固治療が不要となり、心房細動に関連する内服薬も不要になるなど術後QOLの改善は著しい。僧帽弁手術以外の心臓手術においても心房細動手術の併施により、術後QOLの改善と遠隔成績の改善が期待される。

表1 心房細動の手術適応

クラス I
  1. 僧帽弁疾患に合併した心房細動で,弁形成術あるいは人工弁置換術を行う場合
クラス IIa
  1. 器質的心疾患に対する心臓手術を行う場合
  2. 血栓溶解療法抵抗性の左房内血栓症の合併、あるいは適切な抗凝固療法にも拘らず左房内血栓に起因する塞栓症の既往を有する場合
  3. カテーテルアブレーションの不成功例あるいは再発例
クラス IIb
  1. 孤立性心房細動で、動悸などの自覚症状が強く、QOLの著しい低下があり、薬物療法では改善されない場合
  2. 薬物療法が無効な発作性心房細動で、除細動などの救急治療を繰り返している場合
クラス III
  1. 心房および心胸郭比の著明な拡大があり、心電図における細動波が低電位で、手術を行っても洞調律復帰が困難、あるいは洞調律に復帰しても有効な心房収縮が得難い場合

適応の分類は、下記ACC/AHAガイドラインの表記法に基づいている。


器質的心疾患を伴わない孤立性心房細動においては、抗凝固療法では溶解しない左房内血栓合併例や脳梗塞などの血栓塞栓症を繰り返している例では手術適応である。近年、心房細動に対するカテーテルアブレーションが盛んに試みられているが、持続性あるいは慢性心房細動に対する成功率は依然として低く、不成功例あるいは再発例では外科治療が適応となる。

2. 術式

図1:各心房細動手術シェーマ
図1:各心房細動手術シェーマ

心房細動手術には種々の変法や簡略化術式があるが、肺静脈隔離と両心房切開を行うフルメイズ手術と右房切開を省略した左房メイズ手術と心房切開を行わない肺静脈隔離術に大別される(図1)。僧帽弁疾患に合併した発作性心房細動では左房メイズ手術でも高い有効性が示されているが、慢性心房細動では両心房切開を行うフルメイズ手術の方が有効率は高い。   肺静脈隔離だけであれば手術手技は比較的容易だが、心房細動に対する有効性は60%程度にとどまる。特に慢性心房細動に対する有効性は低く、また発作性心房細動に対してもカテーテルアブレーションの成績が向上した現在、体外循環心停止下に肺静脈隔離だけを行う意義は殆どない。一方、人工心肺非使用冠動脈バイパス術(OPCAB)に際しては、双極高周波アブレーションの使用により心拍動下に肺静脈隔離術を行うことが可能である。

3. 心房細動手術の留意点

不整脈手術は、目には見えない心臓の電気現象を切開、縫合、凍結あるいは焼灼にて変化させようとするものであるから、落とし穴の多くは目で確認されずに、術後心房細動の再発あるいは心房頻拍や心房粗動の発生で明らかとなる場合も多い。アブレーションデバイスを用いた心房細動手術においては、(ⅰ)肺静脈の確実な隔離、(ⅱ)心房切開線を房室弁輪部まで確実に延長、(ⅲ)冠状静脈の全周性焼灼、が肝要である。

1) 肺静脈ペーシングによる肺静脈隔離の確認(図2)

図2:肺静脈ペーシングによる肺静脈隔離の確認
図2:肺静脈ペーシングによる肺静脈隔離の確認

肺静脈の完全な電気的隔離は心房細動手術が成功する上で最も重要な要素であり、この隔離が不完全だと術後高率に心房細動が再発する。双極高周波アブレーションデバイスの使用により心拍動下に左右肺静脈の隔離を行うことができるため、肺静脈のペーシングにて左右の肺静脈が完全に隔離されたかを確認することが出来る。アブレーション後に左右の肺静脈より最大出力でペーシングを行い左房が捕捉されないことを確認し、隔離が不完全な場合は追加焼灼を行う。

2) 心房切開線は房室弁輪部まで確実に延長

図3:三尖弁輪部の焼灼
図3:三尖弁輪部の焼灼

右房および左房の切開線あるいは焼灼線は、房室弁輪や上下大静脈などの解剖学的障壁に至るまで確実に延長する必要がある。単に心房自由壁に切開線を置くだけで房室弁輪との間に生存心房筋を残すと、三尖弁あるいは僧帽弁周囲を旋回する恰好のリエントリー回路を作製することとなり、術後に心房粗動あるいはリエントリー性心房頻拍の原因となる。凍結凝固あるいは高周波デバイスを用いて心房切開線と房室弁輪の間に完全な伝導ブロックを作製することが大切である(図3)。

3) 冠状静脈の全周性焼灼

図4:左房後壁のアブレーション
図4:左房後壁のアブレーション

冠状静脈は入口部から約2-3cmの深さまで全周性に心房筋(pericoronary sinus myocardium)で覆われていて、心房間伝導路のひとつとして重要な役割を担っている。したがって、心房細動手術では冠状静脈を全周性に焼灼しないと、術後に僧帽弁周囲を旋回するリエントリー性心房頻拍の原因となる。心内膜と心外膜両側から冠状静脈を凍結するか、双極高周波デバイスで冠状静脈と一緒に左房後壁を挟んで焼灼する(図4)。


脚注
  • 表1:心房細動の手術適応
  • 図1:各心房細動手術シェーマ
    各シェーマの上段は心房を上方より、中段は後方より観察した図で、下段は心房中隔面を示す。破線は切開縫合線を、赤色の実線は双極高周波焼灼線を、黄色の小円は凍結凝固あるいは高周波焼灼巣を示す。左上図は切開縫合によるメイズIII手術、右上図は高周波アブレーションデバイスを用いたメイズⅣ手術、左下図は左房メイズ手術、右下図は肺静脈隔離術を示す。 MV:僧帽弁、TV:三尖弁、LAA:左心耳、RAA:右心耳、SVC:上大静脈、IVC:下大静脈、FO:卵円窩、CS:冠静脈洞
  • 図2:肺静脈ペーシングによる肺静脈隔離の確認 肺静脈隔離後は肺静脈より最大出力でペーシングしても心房が捕捉されないことを確認する。焼灼線より左房側(A)でのペーシングでは心房が捕捉されるが、焼灼線より肺静脈側(B)では捕捉されない。 LSPV:左上肺静脈、LIPV:左下肺静脈、LAA:左心耳、LPA:左肺動脈。矩形波はペーシング刺激部位を示す
  • 図3:三尖弁輪部の焼灼
    右房切開線を三尖弁輪近くまで剥離、延長したのち、切開端と三尖弁輪間をペン型高周波デバイスにて焼灼する。
  • 図4:左房後壁のアブレーション
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